自然美と人工美が織りなす小さな宇宙
盆栽の魅力を深掘り
日本の伝統的な芸術である盆栽は、植物の本来の美しさを小さな鉢の中で表現するものです。
自然美と人工美の両方を楽しむことができる盆栽は、昔は高尚な趣味とされていましたが、近年ではおしゃれな鉢や育てやすい種類が増え、若い世代の間でも人気が高まっています。さらに、「BONSAI」として海外でも注目を集めるようになりました。
盆栽の魅力
盆栽はその名が示すとおり、盆(鉢)と栽(植物)が一体となって初めて「盆栽」となります。鉢植えはいくら鉢に凝ったとしても鑑賞の主体はあくまで植物ですが、盆栽は植物そのものと盆器(鉢)とで全体として鑑賞します。
そのため、樹の持つ歴史や背景を考慮した鉢合わせや鉢選びの楽しさがあります。盆栽が他の美術品や調度品と明らかに異なる点は、そこに確実に生命が宿っているということです。日々変わりゆく姿、そこに四季を感じ、生命を感じる。盆栽は流れゆく時とともに変化と不変、自然と人が織り成す美しさを楽しむことができます。
盆栽の歴史
今でいう「盆栽」のはじまりは、約1,300年前の中国の壁画にまで遡ることができます。その壁画では、浅い鉢(盆)に二つの石のような塊が載せられており、さらにその上に植物が載っている様子が描かれています。この浅い鉢(盆)に載せられた植物を何と呼んでいたかは定かではありませんが、現代における「盆栽」についての最も古い証拠の一つとなっています。
「盆景」→「盆山」→「盆栽」へ
日本では、平安時代に中国から入ってきた「盆景」が日本独自の美意識を経て「盆山(ぼんさん)」と呼ばれ、平安時代の貴族や鎌倉時代の武士階級の趣味として普及していきました。
日本の伝統芸能の能には「鉢木」、狂言には「盆山」という演目があり、現代まで伝えられています。「盆栽」という呼び名については、明治時代になってから使われ始めたようです。明治時代以降も盆栽は粋な趣味とされてきましたが、培養管理等に時間と手間がかかり、人々の生活環境の変化も相まって次第に時間的に余裕のある熟年層の愛好者の方が多くなりました。
「BONSAI」として世界へ拡がる
1990年代頃から盆栽は海外で注目を集め、今では「BONSAI」という単語が世界の共通語となりました。海外では、若い世代の愛好者も多く、今なお拡がりを見せています。日本でも小さな盆栽を中心として、若い世代の愛好者が増えつつあります。
盆栽は上流階級だけの趣味?
海外で注目を集めるまでは、「盆栽」というと、年配者や金銭的に余裕のある人たちの趣味として捉えられていました。事実、江戸時代までは貴族や武士、明治以降は政治家や財閥にも盆栽を趣味としている人がおり、それが広く世間に知られるようになりました。
そのため、人々がこのような認識を持つようになってしまったのではないかと推測されます。しかしながら、江戸時代には庶民も盆栽を楽しんでいる資料があり、決して上流階級だけの趣味ではなかったことがうかがえます。
盆栽の基本
【形態】
盆栽の世界では、基本的な「型」として樹形という分類があります。
1.直幹と模様木
一本の幹が真っ直ぐに伸びるものが「直幹」、幹に変化のあるものが「模様木」と呼ばれています。この二つの形態がもっとも代表的な樹形とされています。また、一本の幹が斜めに傾くものを「斜幹」と呼びます。幹が二本のものは「双幹」、それ以上の幹数のものは「三幹」、「四幹」、「五幹」というようになり、三本以上の幹については奇数が良いとされています。
2.吹き流しと懸崖(ケンガイ)
幹を傾けて、強い風になびく姿を表現したものを「吹き流し」と呼び、切り立った崖から垂れ下がった姿を表現したものを「懸崖」と呼びます。いずれも樹木が自然環境の厳しさに耐える姿を表現したものです。
3.根連なりと寄せ植え
一つの根元から複数の幹を左右に伸ばしたものを「根連なり」、一つの鉢に何本もの樹木を植え付けたものを「寄せ植え」と呼びます。
受け継がれる文化
日本には遠い昔から「見立て遊び」というものがあります。遊び心とは文化そのものであり、盆栽はその文化を受け継いでいると思われます。また、極限まで削ぎ落とされた世界から無限を感じるというこの思想は、日本の「わびさび」に通じるところがあると思います。
現代に輝く 【 盆栽 ~BONSAI~ 】
日本の「わびさび」を体現するアート
盆栽は根本に苔や化粧土を配置することで、小さな箱庭のような楽しみ方ができます。限られたスペースで自然の姿を表現することは、日本の「わびさび」を体現するアートとしての深い魅力があります。時間をかけて「自然の縮尺」を造り上げること、一枝一枝の出方や鉢の中の苔まで、すべてが盆栽の世界観を引き立てます。また、枯れた幹や枝も、一般的には劣化と見なされるものが、盆栽においては「侘び寂び」を感じさせる「味」として価値が高まります。
盆栽は、造り手の自然観を反映し、時に生きる芸術を表現するものです。観賞用としてはもちろんの事、手入れに没頭することで心を癒し、花や実を成らせることで達成感を得ることができます。このように、現代社会において盆栽の魅力と癒しは多種多様な楽しみ方や変革をもたらし、伝統を受け継ぎながらも時代と共に世界規模で進化を続けています。